
皆さんこんにちは
株式会社シンエイ工業の更新担当の中西です
鉄骨加工における材料選定は、強度(許容応力度)だけでは決まりません。溶接性・靱性・板厚方向特性(Z材)・寸法精度・防錆仕様・入手性・価格のバランスこそが現場の勝敗を分けます。本稿では、JIS記号の読み方、ミルシート(材質証明書)の要点、炭素当量(Ceq/PCM)を用いた予熱判断、H形鋼・鋼板・角形鋼管・一般構造用鋼管の使い分け、Z材や耐候性鋼の扱い方まで、“選定→受入→加工→建方”の実務目線で整理します。
1|JIS記号の“読み方”早見
• SS400:一般構造用圧延鋼材。入手性・価格・加工性のバランスが良い“定番”。主に二次部材・ブラケット・補剛などへ。
• SM400/SM490:溶接構造用圧延鋼材。溶接性・靱性を重視する主要骨組に適合。SM490は主柱・主梁でも定番。
• SN400/SN490(A/B/C):溶接構造用鋼板(SN)。A/B/Cは主に靱性(シャルピー衝撃値の保証レベルや温度帯)の違いを示し、地震動を強く考慮する部位にはSN490B/Cが選ばれやすい。
• STK400/490(丸鋼管):一般構造用炭素鋼鋼管。手すり・ブレース・軽量架台など。
• STKR400/490(角・矩形管):電縫角形鋼管。梁成の低い梁・小梁、意匠柱、手すりフレームなどで多用。
• H形鋼(JIS G 3192):寸法公差・曲がり・ねじれが規定。工場受入で通り・反り・ねじれを必ず確認。
TIP:板厚方向の割れ(層状割れ)リスクがある厚板の溶接取合い(T継手で引張りが板厚方向にかかる等)では、Z材(Z15/Z25/Z35など)の指定を検討。
2|“用途×仕様”の選び分けマトリクス
用途 推奨材 ねらい 注意点
主柱・主梁(多層) SM490 / SN490B,C 溶接性+靱性 施工温度・予熱管理、厚板のZ材要否
単層・中小スパン梁 SS400 / SM400 コスパ+加工性 継手靱性が要らないところで使う
ブレース STK/SS/SM(設計による) 軽量化・座屈耐性 端部仕口の溶接条件・孔精度
意匠柱・梁(露出) STKR / 鋼板 組立箱形 仕上げ性 継手は裏当・全周溶接、歪対策
階段・手すり STKR / SS400 施工性・外観 角部の塗膜薄化、溶接仕上げ
屋外・重防食 溶融亜鉛めっき or 耐候性鋼 耐久 めっき前後の加工順序・溶接対策
3|ミルシート(材質証明書)の必読ポイント
1) 規格・鋼種:JIS記号、強度区分、製造法(キルド/セミキルドなど)。
2) ヒートNo.:鋳番。トレーサビリティの起点。部材番付と紐付けます。
3) 化学成分:C・Si・Mn・P・S・Nb・V・Ti・Ni・Cr・Cuなど。Ceq/PCM計算の材料。
4) 機械的性質:降伏点・引張強さ・伸び・(必要に応じ)シャルピー衝撃値。
5) 寸法:板厚・幅・長さ/H形鋼のサイズ。許容差も参照。
6) 熱処理・付帯処理:正火・調質・ショット+プライマー等。
受入儀礼:ミルシート⇆現品のヒートNo.・寸法の突合せ→外観(錆・傷)→曲がり・ねじれ→受入印。ここでの見逃しは後の工程でコスト×3になります。
4|溶接性を数値で掴む:CeqとPCM
• 炭素当量Ceq(例):Ceq ≈ C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15
値が高いほど硬化しやすく割れ感受性↑。
• PCM(溶接割れ感受性指数の簡易式)も同様に低いほど割れにくい指標。
• 運用の勘所:
o 薄板×Ceq低:無予熱〜軽微な予熱でOK。
o 厚板×Ceq中〜高:予熱温度↑+入熱管理+水素対策(乾燥)を強化。
o 高拘束継手(箱形柱ダイヤフラム等)は、Ceqが低くても割れリスク。順序・仮付・開先清浄を厳密に。
5|H形鋼・鋼板の“クセ”と受入検査
• 形鋼(H・溝・山形):通り(カンバー)・そり(スイープ)・ねじれを測定。許容超過は初期矯正を実施してから加工へ。
• 鋼板:板厚偏差と耳波(エッジの波打ち)をチェック。開先加工・プレス曲げ時の反発量も想定。
• 材長取り(歩留り):端切れはスペーサ・当て板へ再利用。余長は仕上げで吸収できるよう計画。
6|角形鋼管(STKR)・構造用鋼管(STK)の勘所
• R形状:STKRはコーナーRがあり、意匠で見え方が変わる。仕上げの磨き・塗装でR部の膜厚不足に注意。
• 寸法公差:角管の対辺長と対角(スクエア度)を要チェック。フランジプレートの合わせに影響。
• 孔あけ:角管の片肉抜け・バリに注意。後工程での高力ボルト締結を見据え、面取り・バリ取りを標準化。
7|Z材(板厚方向特性)と層状割れ対策
• 層状割れは板厚方向に引張り応力がかかると発生しやすい。硫化物介在物の延伸が誘因。
• Z材(Z15/Z25/Z35など)は板厚方向の絞り保証で、厚板のT継手や箱形柱ダイヤフラムで効果大。
• 設計×製作の握り:Z材の指定がなければ開先や継手形状でリスク低減を図るか、材料置換提案を早期に。
8|防錆・表面処理の選択肢と順序
• ショッププライマー:ブラスト+一次防錆。溶接部の焼け戻りは後補修で膜厚回復。
• 溶融亜鉛めっき:屋外・海浜で強力。めっき前加工(孔あけ・タップ)を済ませ、溶接はめっき後に極力避ける。やむを得ない場合はめっき剥離→溶接→補修の段取りを明文化。
• 耐候性鋼:塗装レス運用を想定。排水設計と付着塵の堆積防止が寿命を左右。意匠と維持管理計画をセットで。
9|材料手配と在庫の“勝ちパターン”
• 長尺のまとめ買い:歩留り最適化と運賃効率UP。ただし保管スペースと変形リスクを見込む。
• 標準化:板厚・サイズを社内標準に寄せ、端材活用と段取り替えを減らす。
• 代替ルール:SN⇄SM、STKR⇄鋼板組立の許容範囲を社内で明文化。
• 納期前倒し:厚板・Z材・特殊材は納期長。工程計画で先行手配を習慣化。⏳
10|“今日から使える”受入チェックリスト ✅
☐ ミルシート:規格・鋼種・ヒートNo.・化学成分・機械的性質を確認
☐ 現品とミルシートのヒートNo.突合せ完了
☐ 形鋼:通り・そり・ねじれが許容内/必要なら矯正
☐ 板:板厚偏差と耳波の確認、反発量の見込み
☐ STKR/STK:対辺長・対角、孔あけ面取り、バリ取り
☐ Z材指定の有無と適用部位の確認
☐ 表面処理仕様(ショッププライマー/めっき/耐候)の前提と工程順序の共有
☐ 受入写真・寸法記録の保存(クラウド台帳)
まとめ
材料選定は“強度”だけでなく“溶接性・靱性・板厚方向特性・表面処理・入手性・コスト”の総合設計です。Ceq/PCMで定量判断し、Z材や防錆仕様の是非を早期に握ることで、現場の手戻り・コスト高騰を防げます。次回は工作図・BIM/CADの実務に進み、Tekla等の3DモデルからNCデータ生成→干渉チェック→部品符号・改定管理まで、“データが現場を動かす”仕組みを分解します。